平成8年

川内商工会議所50周年記念論文(川内商工会議所)

入賞 「アクアポリス構築の提言〜みずみずしい交流拠点・川内をめざして〜」

 

1 はじめに〜仲秋の川内大綱

仲秋、薩摩国府が置かれた九州西南の地で丹田をサラシで引き締めた若者たちが、一本の大綱に群れ怒涛のごとくせめぎ合う。ケンカ綱として日本一の呼び声高い川内の大綱引である。ここでは、歴史の地熱を足先から頂門にまで立ち昇らせ、堰を切らんばかりのエネルギーを大綱に結集する若者を、川内河童(センデ・ガラッパ)とよぶ。ダン木祭の神事のあと川内河童たちが引き合う大綱の螺旋(らせん)は、川内の過去から未来を貫く歴史の遺伝子であり、その芯には天孫神話が練り込まれている。

 川内商工会議所は、このたび記念すべき創立50周年を迎えた。半世紀にわたる先人の絶ゆまぬ努力と輝かしい功績に対し心から敬意を表するとともに、ますますの産業振興が図られることを切に願うものである。

 そこで、私はわが国の国際化、高度情報化、少子化などの動向をふまえながら、21世紀の川内の発展に向けて「アクアポリスの構築」を提言したい。

 

2 アクアポリス構築の提言

(1)アクアポリスの構築

 

 ア アクアポリス

アクアポリス(Aqua Polis)とは、紀元前にギリシャで自由、平等、自治の原理を理想としながら、独立した主権国家として民主政治を行っていたポリス(アテネ、スパルタなど)に由来する。「水の都市国家」として水を共有の財産としながら、地球上の生きとし生けるものの共生をめざす「地球・共生」を基本理念とする。イメージとしては、水を血液、河川を血管、海を心臓とするみずみずしずしい交流拠点・ダイナミックな国際自由都市である。

 

イ 薩摩地方政府

私は、薩摩半島をエリアとする薩摩地方政府をアクアポリスとして構築したい。薩摩地方は、東シナ海、錦江湾、川内川、万之瀬川、池田湖、鶴田ダム、豊かな温泉など水の財産に恵まれアクアポリスとよぶにふさわしい。目途としては、わが国の人口がピークを迎え、また、九州新幹線等交通基盤や光ファイバー網等情報基盤が整う2010年としたい。

地方政府の性格としては、国、県、市町村の機能を合体分割させたもので、従来の地方自治体の枠を超え政治、経済、文化において自律的な権能を有する。これは、近年さけばれている地方分権と国内外の規制緩和を具現し、さらに国際的な機能に独自性をもたせたものである。

 

ウ 新薩摩国府

 新薩摩国府とは、アクアポリスのセンターであり、川内に置く。そして、8世紀堅牢な礎(いしずえ)と成熟した統治を誇った薩摩国府・国分寺跡を遠望し、21世紀交通の東西基軸点となる向鶴地区にアテネのパルテノン神殿に比すべきセンター(地方政府庁)を建設したい。

センターから西を望めば、西回り自動車道・川内IC、重要港湾川内港、甑島、そして東シナ海をへだて世界一の貿易港上海港となり、東を望めば国道267号田海バイパス、九州縦貫自動車道、鹿児島空港へとつながる。南北ラインは、島原・天草・長島(三県)架橋、西回り自動車道、新幹線など九州西岸軸と重なる。また、着々と抜本改修が進む川内川を見渡せる位置にある。

 センターは、アクアポリスの中枢機能を有し健康福祉、環境衛生、防災、消防、文化などあらゆる住民サービスを総括する。センターは情報スーパーハイウエイ構想の中で、全住民を対象とする個人情報カードシステムの導入により広いエリアで多様なサービスの享受を可能にする。また、放送スタジオを設置し、マルチメディア機能のCATV等を通じて全世界の情報を提供する。一方、センターに隣接して広大なヘリポートを整備し企業活動、防災、観光等における空の交通ネットワークをつくっていきたい。

 

(2)未来への郷愁

 

ア 薩摩国府1300年祭

アクアポリスでは、未来の科学技術(Technology)への憧れと過去の歴史への郷愁(Nostalgie)が融合し息づく。この概念をテクノスタルジー(Technostalgie〜未来への郷愁)とよびたい。私は、情報化、国際化が著しく進展していく21世紀であればこそ、50年、100年スパンでふるさとの過去と未来を想う市民意識を醸成していきたい。

1300年祭はシリーズで開催するが、まず第一弾として2002年に薩摩地方政府の樹立に向けて、南九州の統治拠点であった薩摩国府(702年〜)建都1300年記念の大祭をにぎにぎしく開催したい。そして、2008年に豊臣秀吉と島津義久の和睦で知られる泰平寺(708年〜)、2041年に薩摩国分寺(741年〜)の古式ゆかしい記念大祭をハイテクを駆使して開催してはどうだろうか。

また、2020年には、島津吉貴が「せんだい」の複数の表記を「川内」に統一(1720年)したことを記念して「川内300年祭」を、市制施行80周年と併せて実施したい。

さらに、2003年には、川内に第1号の誘敦企業(パルプ)が立地(1953年〜)してから50周年になるが、世界の技術の粋を集めた産業テクノフェアを開催すれば産業振興の観点からも極めて意義深い。

 

イ myth 川内

 アクアポリスの中心地域・川内は神話(myth)のふるさとであり、宮内町の神亀山・可愛山陵は天孫・壇壇杵尊(ニニギノミコト)、端陵は妃・木花開耶姫(コノハナサクヤヒメ)、中陵は長子・火関降命(ホスセリノミコト〜海幸彦)の陵墓といわれ、第二子の彦火々出見尊(ヒコホホデノミコト〜山幸彦)は五代町若宮神社、第三子・天火明命(アメノホアカリノミコト)は五代町川合陵に祭られている。

 私は、古事記、日本書紀に記された天孫神話をテーマとしてミュージカルの創作など全国ネットで「mythミス(神話)川内」と冠した様々なイベントの開催を提言したい。

 伊勢市(天照大神)、霧島町(霧島神宮)や可愛山陵とともに神代三山陵と呼ばれる陵(みささぎ)の所在地、吾平町(吾平山上陵)、溝辺町(高屋山上陵)、更に下甑村(浦島伝説)などとタイアップして、宝物の展覧や「神話の旅」の実施、古代装束や古代食のコンテスト、勾玉・鏡・剣に替わる新・三種の神器フェスティバルを開催したい。特に木花開耶姫のふるさと笠沙町からは「miss(ミス)笠沙」を招待したい。新田神社におかれては、記念の御守などを出していただけないものだろうか。

 

ウ 霧の都

 川内地方には霧がよく似合う。寺山公園からの眺望は神々しくさえある。21世紀の初頭には西回り自動車道が完成するが、高江町〜小倉町間の川内川渡河橋を霧の都にふさわしくロンドンのタワーブリッジ風にしてはどうだろうか。

 これは、4代目太平橋(1903〜1951)が本来ロンドン・テームズ川に架けられるものであったことや薩摩藩欧州留学生が串木野市羽島から船出したことにちなむものである。そして、その橋の下をコースとするオックスフォード大学vsケンブリッジ大学のレガッタも、1993年の早慶レガッタを成功させた川内にとって実現させるべきイベントであり、1994年川内に開学した鹿児島純心女子大学ボート部との交歓マッチも企画したい。

 

(3)ビオトープ 

ア “生命の場所”

 ビオトープとは、「生命の場所〜安定した生活環境をもった動植物の生息空間」という意味であり、アクアポリス構築の基本的概念である。上甑島の貝池には、30億年前に出現した光合成細菌が生息するが、世界でも2箇所でしか見られない極めて貴重なものである。21世紀は原生への回帰の時代であり、人と自然、動物と植物の共生が基本となる。そのためには、海洋、河川、湖沼、湿地、森林における水と緑のネットワークの中で、かよわいもの、動かないものを守る視点をもつことが重要になってくる。

 

イ エコロジー

 アクアポリスには、動植物の聖域(サンクチュアリー)をつくる。現在、出水のツル、東郷の臥竜梅、蘭牟田池のべッコクトンボ・浮島、吹上浜のアカウミガメなど保護対策がとられているが、川内地方においても西方・唐浜・久見崎・寄田海岸のアカウミガメ、小比良池のオニバス、川内川の野鳥、高城川・湯田川のホタル、また河童伝説の残る淵など、将来にわたって貴重である。

また、基幹交通の整備に併せて地下トンネル式の「けもの道」を設置し、動物の生息地域へ配慮したい。私は、うっそうとした原生林を有し、また高速自動車道や新幹線の上を水鳥が群舞するアクアポリスをめざしている。そして、今日エコロジーはグローバルな観点から議論すべきものとなってきており、21世紀とはまさしく「地球・共生」の時代である。

 

(4)グローカリズム 

ア 地球市民

 アクアポリスの住民は地球市民であり、その思考と行動の基本軸においてグローカリズム(glocalism)、すなわちグローバリズム(globalism 世界主義)とローカリズム(10Calism 地域主義)を併せもつ。アクアポリスに湧き出ている生命の水を飲みながら、地球を網羅するアンテナを張りめぐらせているのである。

だから、有史3千年、戸田の淵や稚児ヶ淵などに浮き沈みしていた川内の河童たちも、進化して世界中の異質の水に遊泳することとなる。

 

イ アクア童夢

 いつの世も子供は宝物であり、特に少子化が進む21世紀においては貴い存在である。そこで、子供たちに夢を与え、またグローバリズムを滴養するため、各地にアクア童夢(Aqua・Domeド−ム)と銘打って、“頭が地球儀の河童”をモチーフにしたドームを建設したい。河童の頭の皿には太陽光発電を装置し、晴れた日に皿が乾いても元気な河童にしたい。ドームの機能としては、まず先哲記念館である。進取の気質をもって偉大な業績を残した岩谷松平(「天狗煙草」)、山本斉彦(「改造社」)、西之海(第16代横綱)や、川内地方を訪れた大伴家持、ザビエル、豊臣秀吉、西郷隆盛、与謝野鉄幹・晶子など史実にその名を残す先哲をあまねく紹介し、子供たちの師表としたい。ドームには、“山学校・川学校”の拠点としての機能を持たせ、子供たちは大いに野に山に川に遊び、草いきれの中で野の花を摘み、虫とたわむれる。あるいは、小川の清流に魚影を追いながら、文字どおり‘‘川に遊ぶ子供”〜河童へと変身するのである。また、高齢者が伝統的な遊び、玩具づくりを昔話を語り聞かせながら手に手をとって伝授し、ふるさとの歴史を連綿と引き継ぐ。

 そして、想夫恋などの伝統芸能や天孫神話、日暮長者・河童伝説などを3D映像を駆使したバーチャルリアリティーで体験できるマルチメディア・シアターを開館させ、世界中の子供を迎えたい。私は、このドームを、かつて薩摩国府・国分寺の瓦が焼かれた鶴峯窯跡付近に建設し、ドームの窓から寺山中腹に世界中の花でつくられた大きな花時計を眺めてみたいと思う。また、ドームには、豊富な温泉を利用した大浴場とプールも併設し、高齢者の介護サービスに役立て、子供たちは、そこから川内川や中郷池につながるウオータースライダーで周遊する。

 

(5)アジアの時代 

ア 甑海峡特区プロジェクト

 21世紀はアジアの時代であり、中国と一衣帯水のアクアポリスの発展ポテンシャルは極めて大きい。わが国の輸出先市場として、アジアは1994年は40%を占めるが、2010年には56%、2025年には70%になると予測されている。そこで、私はドラステイクな政策として甑海峡特区プロジェクト(以下「甑特区プロジェクト」)を提言したい。

これは、わが国の産業の空洞化をくい止め地場産業を振興するため、生産、流通・貿易、労働などに係る国内外の規制を大幅に緩和しながら甑島全島、串木野新港・川内港とその背後地及び西回り自動車道IC周辺を特別(整備・緩和)地区に指定し、新産業振興ゾーン・自由貿易流通ゾーンを形成するものである。集中的な港湾等整備と併せ、関税、港湾施設使用料、電気・水道料金などの大幅な軽減、輸出入・出入国手続の簡素化と権限委譲、外国人の就労基準の緩和などを行う。甑島は、「21世紀の出島」として、蘭牟田瀬戸架橋など縦貫道の整備を進めながら新たな視点で開発を進めてはどうだろうか。外国貿易における中継点になりうると思う。 川内市出身の笹山幸俊氏が市長である神戸市では、1995年の阪神・淡路大震災からの復興のシンボルとなる上海長江交易促進プロジェクト(以下「長江プロジェクト」)が、経済界も巻き込んで日中両国の国家プロジェクトとして進められている。これは、目覚ましい経済発展を続ける長江流域と神戸港との直接交易ルートの開設や神戸港での専用港区、中国人街の整備を行うものであり、浅瀬でも航行可能な5000〜6000トンクラスの河川用船舶の開発も大きなテーマとなっている。川内港では、既に10年間、神戸〜上海間の定期フェリー「新鑒真(しんがんじん)」が寄港している。また、上海市に隣合う常熟(じょうじゅく)市は川内市の友好都市(1991年〜)であり、1996年秋、3万トンバースを有する国際貿易港・常熟港を長江に竣工させることを考えると、今まさに緒につこうとする長江プロジェクトは、甑特区プロジェクトとして捉え、21世紀の「海の道」を切り拓かなければならない。その最大拠点となるのが、川内港である。 長江流域との航空についても、アクアポリスの中央部・吹上浜の東側にハブ空港を整備し直行使を開設する必要がある。この空港には、アクアポリス・センターのヘリポートからもアクセスする。また、「樗木文書」として知られる18世紀の造船資料を今に伝える川内市久見崎地区には、河川用船舶の造船所を建設し、新船は甑島にもプールしながら長江プロジェクトへ送り込みたい。一方、アジアの急激な経済成長に伴って地球環境への負荷が懸念されるが、アクアポリスは全国有数の電源(水力、火力、原子力、地熱、風力)地域であることから、例えば電気自動車(関連機器)の工場を建設し、製品は低廉な電気料によって甑特区内で活用するとともに、環境汚染が重要課題となり、かつ近い将来世界の巨大マーケットとなる中国等へ輸出してはどうだろうか。

 

イ 新産業振興ゾーン

(ア)新産業センター

 21世紀に伸長する産業分野として情報通信、環境、福祉、看護等が注目されているが、私は将来の産業融合の動向や川内地方の特性を踏まえて、甑特区となった川内港の背後地から川内ICにかけて、地場産業の起業・育成を基本的視点としながら研究開発、製造、サービス、PRの一連の一企業が立地する国際的な新産業振興ゾーンの形成を提言したい。まず、全国をネットワークする光ファイバー網の整備を進めながらマルチメディア機器の製造、補修サービス、併せて情報プログラムの作成、提供を行う企業の育成、立地を進めたい。また、地域から流出を続ける経済価値を受けとめるために、特に発電施設のメンテナンスに係る技術者養成や機器製造調達を総合的に行う新産業センターを産学官共同でつくる必要がある。そして、港湾、高速自動車道、新幹線、河川、情報基盤の整備などビッグプロジェクトが進められるアクアポリスの21世紀を展望すると、産業連関の観点からも建設業の産業振興に果たす役割は大きい。私は、地場産業としての建設業は、その技術、労働の質と量を飛躍的に高める必要があると思う。そのためには、新産業センタ  ーにおいて設計士、建設技術士の養成、建設機械の製造、補修サービスの機能が求められる。このセンターは、アクア童夢で育った子供たちが、やがて学び働き世界に雄飛する拠点となる。

さらに、国際的な規制緩和によって、アジアから優秀な研究者、研修生、労働者を新産業振興ゾーンに受け入れる必要がある。このゾーン以外で農林業の分野においても、アジアのマンパワーを活用し、わが国の国土の保全、一次産業の振興を図るべきであると思う。そして同時に、アジアの社会資本整備に向け発電、環境保全等に係る大型プラントを輸出していきたい。中国は近く石油の国家備蓄を開始し、その技術援助をわが国に求めてきており、水、食糧とともに資源・エネルギーも「地球・共生」の理念なくしては語れない。(イ)唐浜マリンタワー その名に中国との交流がしのばれる唐浜(からはま)地区に、天草から吹上浜まで展望できる超高層のマリンタワーを建設したい。国際貿易センター機能として、アクアポリス・センターとの交通・情報ネットワークの中でCIQ、海上保安の機関を置き、また貿易商社、海運、港湾荷役、金融、流通等の企業が多数入る。さらに、住民の暮らしの安心と安全確保のため世界防災研究所を設置する。最上階は展望レストランとして、アクアポリスとアジアの海の幸、山の幸を各国の音楽をききながら食することにしよう。そして、マリンタワーからは水上バスによって川内川を上り中心街区の速達笥と結び、九州のマンハッタンとなる開聞・向田トライアングルゾーンへ案内したい。ウ 100万人ポリス構想 現在、薩摩半島の人口は50万人(県都は除く)であるが、私は21世紀には国内外の若者が蠣集する人口100万人のアクアポリスにすることを提言したい。ちなみに今でも鹿児島県180万人(9131.31平方キロメートル)に対して、21世紀のパートナーである上海市は1300万人(6185平方キロメートル)、常熟市は104万人(1142平方キロメートル)を擁している。現在、地球上の様々な分野でボーダーレス化が進む中、さらに外国人に門戸を開放していくならば、産業振興において活路が見い出せるのではないだろうか。わが国への入国者数は、1994年の400万人から2025年には7.5倍の3、000万人と予測されており、外国人の定住も進むものと思われる。8世紀、鑑真和上は6度目の渡航によって坊津に漂着されたが、出港は常熟市の小さな港であったと常熟市史に記されている。この情熱は21世紀においても生かされなければならない。

3 おわりに〜

新田神社の大楠 凛とした月光のもと、川内河童たちは新田(にった)の大楠の空虚(うろ)にまで鬨(とき)の声をひびかせながら滞身の大綱を引き続けている。私は薩摩国府の栄華を見てきた大桶に触れながら、みずみずしい交流拠点・川内を創造することは、この薩摩の地を切り拓いた先人が、われわれに与えた使一命であると思う。そして、とどまることを知らない川内河童たちのエネルギーと彼らに先人が託した未来へのメッセージが、大綱の聖なる螺旋(らせん)によって21世紀へと伝えられ「地球・共生」を基本理念とするアクアポリスが構築されんことを心から祈るものである。