平成7年6月

「21世紀の水と川へのアイディア」(財団法人国土開発研究センター)

佳作入選 「河童の夢」

 

1.はじめに〜河童の里

与謝野晶子が「月光に比すべき川の流るる」と詠んだ薩摩の里には、古来より河童がひそんでいるという。川内川(せんだいがわ)をすみかとし、時々イタズラをするが気はやさしくて力持ちらしい。この地では、川内河童(せんで・がらっば)と呼ばれている。

 これまで河童たちは、川内川のよどみを浮き沈みしながら安穏とした生活をおくってきたが、今その河童たちの太平の眠りをさます日本一の河川改修プロジェクトが始まろうとしている。

 九州最大級の一級河川・川内川は、下流域において川内市を東西に貫通するが、抜本的河川改修事業として市街地の右岸、左岸合わせて50ヘクタールのカット、850戸が移転対象というビッグプロジェクトが着手されようとしている。

 私は、かつて洪水にあらわれ、そして現在、水害のない豊かなまちづくりが進もうとする川内地方から、水と川の21世紀に向けて次のことを提唱したい。

 

2.水と川の21世紀への提言

(1)河童の心

 すべてを水に流してしまう日本人は、いつしか水の行く末を見なくなってしまったのでないか。だから、河童が人間の日に触れる機会までも、めっきり少なくなってしまったようだ。

 私は、水と川の21世紀に向けて私たちがなすべきことば、まず、第一に河童の心を取り戻すことだと考える。河童の視点で世の中を見ること、すなわち、河童の心を取り戻すことが、水と川を愛することにつながる。私は川内河童たちと

大きなフキの葉を振りかざしながらアクアルネッサンスの旗手になりたいと思う。

 

(2)世界河童連合の創設

地球規模で自然災害の防止、水資源の確保、あるいは豊かな水辺環境が望まれている今日、私は地球上のすべての河童たちに呼びかけて世界河童連合の創設を提言したい。現代はすでに人為による地球環境の変化が21世紀のフェイクル(fatal)な要因となりつつあり、世界が連合した取り組みが求められる。

 だから、世界中の河童たちが立ち上がり、手に手をとって地球を循環する大きな力をつくり出し、水を共有の財産として守りながら、同時に多面的に活かしていくべきである。

 

ア 育と緑のODA〜治水において

 治水の分野で取り組むべきことは「育と緑のODA(政府開発援助)」の創般である。私は、青すなわち治水、緑すなわち治山を世界協力事業として大規模に進めることを提言する。大洪水などの災害については世界のどの国でも援助や復旧の人材、資材をフレキシプルに相互派遣できるシステムをつくるべきであると思う。

 また、九州では春先、黄砂が飛来し、川内河童も目をしばたたかせるが、例えば、中国にODA事業として共同植樹隊を派遣し、不毛地帯を緑したたるオアシスゾーンへと再生させてはどうか。最近「全人類、一年一本植樹運動」が提唱されているが、積極的に支持・支援すべきものである。

 

イ 世界「水」銀行〜利水において

 昨年、わが国は百年に一度と言われるような猛暑によって異常渇水の状態に陥った。これからの計画的な利水対策として広域的な水道の給水体制に加え、さらに広く河川流域の自治体や企業が水を相互に融通するネットワークをつくるべきだと思う。

 また、全国各地に水源探索モニターを配置し、情報ネットワーク化することによって将来の水先源確保に備えるべきである。

一方、日本の伝統文化を支えながらも米の生産調整が続く田んぼについては、休耕田を大規模に集約して広大な遊水池をつくり出し、工業用水等に括用してはどうだろうか。

 ここで、世界河童連合の視点で利水の分野を考えてみると、水の輸出入体制を整えることが第一条件となってくる。鹿児島県には世界遺産に登録された屋久島があるが、樹齢7千年の屋久杉を育ててきた天賦の水をタンカーによって国内外に輸送する構想が打ち出されたことがある。

 また、エネルギー対策として石油の地下備蓄がなされているが、世界レベルの水の需給バランスに対応するため国家水資源備蓄基地を世界各国につくってはどうだろうか。これらの基地を世界「水」銀行、輸送するタンカーは「動くダム」として位置づけるものである。

 

ウ 浄水プラント〜浄水・淡水化において

 わが国では、河川流域ごとの水質検査体制や広域的な下水処理体制がとられているが、世界河童連合の浄水と淡水化の分野における仕事は、各々大型プラントの建設とそれらを取りまくシステムの構築である。

 まず、浄水について加盟各国が統一の環境(水質)基準をつくり、世界的な検査体制と浄化勧告制度を確立するともに、浄水に関する技術援助を行うものである。そして、特に汚濁が進むおそれのある地域には、各国の協力によって大型浄水プラントを建設していく。淡水化については、水が不足しがちな沿海地区や離島に海水から淡水をつくり出す大型プラントを建設して給水を行う。

また、大きな河川で淡水と海水がまじり合う汽水域にも大型プラントを導入して淡水の確保を図るペきだと考える。

 

エ 水の駅〜親水において

 親水では、世界各国の河川流域に水の駅をつくることである。水の駅のイメージとしては、河川と基幹交通が交差するところに、人間も河童も、鳥も野ウサギも魚も集い、モグラやミミズも所々に頭をのぞかせるような広大な水辺公園ゾーンをつくり出すことである。

平和な「ノアの箱舟」地帯の出現である。むろん世界中の水の駅と、交通と情報においてネットワーク化されている。

 この水の駅では、水辺環境を整備しながら子供たちの夢を育むものとしてカッパハウス(河童のすみか)を建設する。カッパハウスでは、世界の河川・滝・湖沼・海やそこに住む生物、河童や竜などにまつわる伝説やイラスト・玩具を紹介したり、各国の川の串・海の幸を楽しめるグルメコーナーにも案内したい。すぐ隣の河川敷には、河童相撲道場をつくることも忘れてはならない。

 また、カッパハウスのイベントとして、栢年各国持ち回りで、世界カッパサミット(水と川の世界サミット)を開催する。このサミットでは、テーマとして河川防災など各国に共通の課題を取り上げながら、子供たちが楽しめるイベントも同時に開催して、世界の河川文明の交流メッカを目指す。

 

(3)河童の道

ア 高速交通ネットワーク

21世紀の河童にとって、近くのカッパハウスで遊ぶだけでなく世界カッパサミットへの出席となると、水力キだけではいささか寂しくなってくる。河童も空を飛ぶ時代となった。

世界中の河童たちが互いにもっと身近に感じるための交通ネットは、水面を基準として陸へ空へと展開する必要がある。最寄りの水の駅を拠点として、縦横無尽の高速交通ネットワークを構築しなければならない。一例としてヘリコプターをとりあげてみたい。水の駅のゾーン内にある堤防や河川敷、ヘリポートやヘリストップとして観光レジャーや救急にもっと役立ててはどうか。災害時においても、ヘリコブターの抜群の機動力は災害予見、情報収集、人命救助、物資輸送に大きな役割を果たすものである。

 

イ 高度情報ネットワーク

 わが国では、2010年までには全国光ファイバー網が整備されるが、このネットをCCボックス(共同利用溝)に取り込み、さらに放送衛星と連動させる必要がある。21世紀はマルチメディアの時代であり、それは確実に世界ネットに拡がっていく。だから、私は、水と川に関する高度情報ネットワークのホスト局は、世界河童連合の事務局に置くことを計画している。

 そして、中山間地域が多く、超高齢化祉会に突入するわが国が帝人すべき情報油偶の手段として、マルチメディア機能を備えたCATV(有線テレビ)が極めて有望であると考える。

 導入のモデルケースとして、河川流域の全戸にCATVを配置し、常時、日本及び世界のカッパハウスのイベントなど、水の駅情報を提供しながら、突発する地震などの防災情報も瞬時かつ、一斉に一斉に流すものである。

 

3.おわりに〜河童の夢

 川内川は、今日も水面に銀鱗をおどらせながら、悠然と西の空へと流れている。水と川の21世紀をつらつら思うに、私たちが目指すべきものは、地球の水サイクルを再認識して、水と川がその自浄能力にあふれていた地球原始の時代にかえることかもしれない。

 そして、水を「地球の血液」として循環させ、守りながら、次世代へと連綿と引き継ぐべきであろう。

 川内河童の夢は、カッパハウスの見える河川敷で、東シナ海に沈む夕日に頭の皿を熟柿色にうるませながら、世界の子供たちと相撲に汗することである。

 だから、すみかに帰る途中、快い疲労のあまり河童の川流れとなったとしても、それは仕方あるまい。